LifeTouch NOTE 開発者インタビュー NECのアクティブコミュニケーター、「LifeTouch NOTE」に開発メンバーが込めた思い。

NECデザイン&プロモーション デザイン事業部 菅原暁 デザインへのこだわり

―デザインコンセプトは。

菅原デザインは企画が練り上げてくれたコンセプトに沿って、いつでも持ち歩けて使いたいときにすぐに開けるフォルムになるようまとめていきました。いろんな持ち方ができることも大事です。そのために、ヒンジを軸にシンメトリックなデザインを施しています。四隅の角Rが大きくて装置周囲がスムースにラウンドしているフォルムなんですが、キーボードの横を持つ、ディスプレイの横を持つ、または開いた装置を縦にして持つ、どこを持っても持ちやすく手に当たる感触が一緒になるようにしています。

―工業デザイン的に特に工夫されたところはありますか。

菅原キーボードを快適に打てるクラムシェル型Android端末のあり方についてエンジニアと検討を重ねました。この装置はディスプレイが180度開くように設計されているのですが、ディスプレイの両側には3GアンテナやWiFiアンテナが高密度に実装されていてディスプレイ側の重量がキーボード側と同等なんですよ。だからディスプレイ部分を大きく開いていくと装置が向こう側に倒れてしまいます。それでは困るのでキーボード入力時のディスプレイ最大開角度を135度に設定し、そこまでは装置が倒れないバランスとなるよう内部の重量バランスやヒンジ下ストッパー位置の調整を試作機でつめていきました。見やすい角度にディスプレイを開いて快適にキー入力をするということを絶妙なバランスで実現しています。あとは親指が滑らかにスペースキーを押せるよう、スペースキー下部のカバー形状をギリギリまで削りました。なんといってもキーボードが売りの端末ですから打鍵感にはこだわりました。

あと、細かいところではディスプレイの両端の処理に注目してほしいですね。触ってみてください。ディスプレイ周囲だけを光沢にして、その外側はドットとシボ加工を施しています。ディスプレイの横を持つ際に指紋がつかないように配慮しました。このパーツだけ別の工場の特別な金型で成型しているのですが、そのおかげでシャキっとした顔が作れました。

―この製品ならではのアプリも考えられそうです。

菅原クラムシェル型だから当たり前なんですが、ディスプレイが自立するってとても便利だと思うんですよ。個人的にはスマートフォンでYouTubeをよく見るのですが、ファストフードや牛丼屋のカウンターテーブルでYouTubeを見るのにこの装置のサイズ感は最適だと思います。また、ノートPC的な使い方だけじゃなくて、本のように縦位置で持ってみたり、三脚なしにそのまま自立させてビデオ撮影ができるんですよね。クラムシェル型Android端末ならではの便利なアプリがたくさん出てきてくれるとうれしいです。

NECパーソナルソリューション事業開発本部 事業開発本部 柴山友則

―カラーバリエーションについてはスンナリと決まりましたか。

菅原カラーに関しては、今回はピアノブラック、バーミリオンレッド、チョコレートブラウンの三色を用意しました。ピアノブラックだけが光沢で、他の2色はマットです。ネットブックやスマートフォンのカラー動向を調査し、今回の装置は対象がエントリーユーザーではないのでホワイトは避けました。基本色はブラックで他の2色はPCでも人気のあるレッドとブラウンを採用しています。

カラーバリエーション

柴山持ち歩くものなので、あまり派手でもいけないですしね。そういう点で、レッド、ブラウンのカラーバリエーションについてはマットの方が適しているだろうという判断をしました。

菅原技術力の高い工場で塗装しているので、3色ともいい感じに仕上がっています。光沢塗装がうまくいかないとユズハダと言って表面がデコボコするのですが、この装置のピアノブラックは蛍光灯の反射もとても綺麗に映り込みます。

バーミリオンレッドはシルバーの上にクリアレッド、その上からマットを塗る3コート仕上げです。クリアレッドの塗り厚が数ミクロン違うだけでレッドの色相が違って見えてしまう難しい色なのですが、塗装技術者の協力で満足できる仕上がりになりました。

ハードウェアとしてのこだわり

―ハードウェアについて、いくつか気になることがあります。もう少し細かく聞かせてください。
まず、なぜ、タッチパネルは静電容量方式ではないのですか。

花岡はい、抵抗膜方式を採用しました。利点はペンを使えることです。ペン先なら細かいリンクもタップできます。また、キーボードでさまざまなことができるクラムシェルでは、マルチタッチは本当に必要なんだろうかという議論もあり、今回はマルチタッチなしで、ペンが使えることを優先しようということになりました。

―メモリースロットがマイクロSDHCではなく、一般的なSDHCメモリなのは、意外に便利そうです。

花岡もちろん、マイクロSDHCがいいかもという話もありました。でも、PCとの間でデータをやりとりするときには、アダプタなしで使える普通のサイズのSDが便利です。このことは、この製品に内蔵されているカメラのスペックを決めるときにも議論しました。実は、ユーザーがこの端末で風景写真やスナップを撮ることはあまりないんじゃないかと考えたんです。だから、カメラ機能については、スペック的にあまり高いものではありません。オートフォーカスもできません。ただ、この製品を使う方は、きっとカメラは別に持っているでしょうから、写真そのものはそちらで撮ってもらおうと。そして、それをこの端末に取り込んでアップロードしてもらおうというわけです。もちろん画像はネット経由で取り込むこともできます。つまり、この製品は、これ単体で完結するものではないんです。だからこそのフルサイズSDHCスロットなんです。

―Android端末でありながら電話ができないのは不思議な感じがします。

花岡電話機能は最初から切りました。日本の人でこれで電話する人はいないでしょうと勝手に考えたのですが、それは極論だとしても、企画段階でまわりを見渡すと、モバイルルータがすごくはやっていたという背景があります。この製品のコンセプトは置き換えではなく、あくまでも追加の端末です。だから、この製品のために回線をもう一本確保してもらうのではなく、別の方法で通信手段を確保し、一本化された回線で使ってもらうのが自然な形だと考えたのです。携帯電話でも、ワイヤレスアクセスポイントの機能を持つ製品が増えてきているじゃないですか。

LifeTouch NOTE、それぞれの想い LifeTouch NOTE、それぞれの想い

―製品が世に出るタイミングで、今の想いを聞かせてください。

下井アンドロイドのよさとPCのよさをまぜたテキストエディタを作れたと確信しています。仕様を決める段階はたいへんでしたが、でも、それはかなえられたと思います。

柴山しっかりしたキーボードを備えて、文字を入力する手段としてのATOKや、ライトなメモ書きに便利なアプリを搭載し、それで書いた文章をブログに投稿するという利用シーンまでを想定してお膳立てをすることで、キーボード付き端末としてのコンセプトをきちんと提示できたと思っています。

菅原花岡さんのジャッジがとてもよかったなあと今にして思います。決めないと次に進めないときに、素早く結果的に正しいことを選んでくれたんだなと。

花岡今回はけっこう男くさい製品開発過程でした。女性から話をきくことはありましたが、日常的に女性がたくさんいる職場ではないので、女性感覚は希薄かもしれませんね。企画が本格的に動いている去年の春頃はスマートフォンを使っている女性もそんなにいませんでしたしね。

思い出せるのは割り切りがつらかったことかな。こうしてできあがった製品を評価していただいて、なぜ、こうなんだと、いわれることは確実にわかっているんです。でも、価格といっしょに提示すれば、我々のコンセプトはきちんと伝えられると、バランスのいいところで割り切りができました。

―ありがとうございました。

スマートフォンとPCの間に位置するエリアは、今年、もっともホットな領域だ。そこを埋める提案のひとつとしてNECが問うのがこの「LifeTouch NOTE」だ。キーボードからの快適な文字入力にこだわり、スマートフォンや携帯電話で起こりがちな「舌足らず」を解消する。市場は彼らの想いを、どう受け止めるのか。スマートフォン元年と呼ばれる今年、この製品の拓く古いけれども新しい世界観に注目したい。

インタビュアー・山田祥平 氏

インタビュアー・プロフィール :山田 祥平

1957年福井県生まれ。フリーランスライター、元成城大学講師。
インプレスPC Watch連載等幅広くパソコン関連記事を寄稿。単行本も多数。NEC製品とは、
初代PC-9800シリーズからの長いつきあい。

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